卵管留水腫とは
卵管は、子宮から腹腔内に延びる管状の器官で、子宮に近い部分を卵管間質部、卵管峡部、卵管膨大部に分けられます。卵管采という部分が腹腔内へ開口しており、これは腹腔鏡で観察するとイソギンチャクのような形状で卵巣の表面を覆っています。卵巣の成熟した卵胞が排卵する際に、卵巣采が動き、卵巣表面から移動し、卵管采も律動的な動きを通じて排出される卵子を吸い上げる役割を果たします。これをピックアップと呼び、卵管采の正常な動きが妊娠に重要です。
しかし、骨盤内の炎症や子宮内膜症などにより卵管采が障害されると、卵管内に卵子を取り込むことが難しくなります。これがピックアップ障害と呼ばれ、不妊症の原因となることがあります。また、クラミジアや淋菌などの性感染症や手術によっても卵管采が障害され、卵管の液体が膨大部に貯留する状態が生じることがあります。この状態は卵管留水腫と呼ばれます。卵管留水腫の液体量は月経周期によって変動し、自覚症状や診断の難しさに影響を及ぼすことがあります。
さらに、卵管内に血液が貯留した状態を卵管留血腫、感染を生じた場合を卵管留膿腫と呼び、これらを総称して卵管留症と呼ばれることもあります。ここでは、卵管内に液体が蓄積した状態を総称して卵管留水腫と表現します。
卵管留水腫の症状
卵管留水腫になると、おりものの量が多くなります。また、おりものの量と並び、不正出血に悩む方も多い印象があります。気になる症状がありましたらご相談ください。
卵管留水腫の検査
超音波検査
超音波検査において、卵巣や子宮周辺に通常の血管や腸管とは異なる「低輝度でソーセージのような影」が見られる場合、それが卵管留水腫の兆候とされます。ただし、常にこの「ソーセージ状の影」が確認できるわけではありません。月経周期によっては姿を消すこともあり、極端に多いおりものの量があった後では影が見当たらないこともあります。さらに、排卵期に出現しやすい時でも、発育中の卵胞と誤解されることもあります。また、体外受精の前に行われる卵巣刺激によって女性ホルモンの分泌量が増えた際に初めて現れることもあります。
子宮卵管造影検査
卵管留水腫の確定診断は、子宮卵管造影検査と腹腔鏡によって行われます。ただし、子宮卵管造影検査も、単に造影剤を注入するだけでは十分な診断とは言えません。油性造影剤を注入した後、少なくとも24時間以上経過してから再撮影を行うことが重要です。
卵管留水腫の治療
(妊娠を望む方へ)
妊娠がタイミング法や人工授精などの一般的な不妊治療で達成されない場合、生殖補助医療や手術療法が考慮されます。ただし、卵管留水腫の存在が着床に影響する可能性がわかっており、手術によって術後の生殖補助医療の結果が改善するという報告があります。手術療法には以下の方法があります。
卵管切除術
卵管を切除する手術。主に腹腔鏡で行われます。
卵管開口術
卵管の一部を切除して、液体が腹腔内に流れ出るようにする手術。主に腹腔鏡で行われます。
卵管閉塞術
(クリッピング)
卵管に溜まった液体が子宮に戻らないように、卵管と子宮の間にクリップをかける手術。主に腹腔鏡で行われます。
Essure®による卵管閉塞術
卵管に溜まった液体が子宮に戻らないよう、卵管の子宮に近い部分に塞栓物質(Essure®)を挿入する手術。日本では症例報告のみで一般的ではありません。子宮鏡を使用して行われます。
卵管留水腫穿刺術
卵管に針を刺して溜まった液体を抜く方法。通常、経腟超音波を用いて行います。外来で処置可能ですが、効果は一過性のため早期に再発が予想されます。軽症の場合は胚移植前に行うことがあります。