不育症と抗リン脂質抗体
について
不育症のリスク因子の中で、8.7%を占める「抗リン脂質抗体陽性」は、「抗リン脂質抗体症候群(Anti-phospholipid Antibody Syndrome: APS)」として知られる疾患の可能性を示唆しています。APSは、30代の女性に多く見られ、動脈や静脈の血栓症、習慣流産、または胎児死亡(一般的には不育症と呼ばれます)などの臨床症状を特徴とする自己免疫疾患の一つです。
自己免疫疾患とは、通常は自己を守るべき免疫機能が、誤って自身の組織を攻撃する病気の総称です。APSの患者では、「抗リン脂質抗体」と呼ばれる自己抗体(通常の体の一部を攻撃してしまう異常な抗体)が生成されます。これらの抗体は、リン脂質またはそれに結合する多くのタンパク質と結合することがあります。
抗リン脂質抗体には、代表的なものとして「抗β2グリコプロテインI抗体(抗β2GPI抗体)」、「抗カルジオリピン抗体(aCL)」、そして「ループスアンチコアグラント(LA)」があります。
抗リン脂質抗体症候群
(APS)の検査
抗リン脂質抗体は、不育症のリスク因子の一つであり、不育症の診断においては「抗リン脂質抗体」の検査が推奨されています。
APSは、血栓症や妊娠に伴う合併症の臨床症状に加えて、以下のいずれかの「抗リン脂質抗体」の検出結果を総合的に考慮して診断されます。2023年3月現在、以下の5つの抗リン脂質抗体検査項目は全て保険適用とされています。
抗リン脂質抗体の検査
一覧
- 抗β2GPI抗体(IgG)
- 抗β2GPI抗体(IgM)
- 抗カルジオリピン抗体(IgG)
- 抗カルジオリピン抗体(IgM)
- ループスアンチコアグラント(LA)
不育症の原因が
抗リン脂質抗体症候群
(APS)の方へ
「不育症」は多くの原因が考えられますが、その中でもAPSは治療可能な疾患の一つであり、適切な治療により流産や死産を予防する可能性があります。APSの診断基準を満たす患者様において、無治療の場合の流産率はおよそ40%と報告されています。
日本では、APSを合併した妊娠の場合、妊娠初期から低用量アスピリンと未分画ヘパリン療法の組み合わせが基本的な治療法として推奨されています。低用量アスピリンと未分画ヘパリンまたは低分子ヘパリンを併用する治療法により、生児を獲得できる割合が80%であると報告されています。