抗ミューラー管ホルモン(AMH)検査とは
抗ミューラー管ホルモン(AMH)は、胎児の初期段階から分泌されるホルモンで、卵巣の卵子が排卵可能な能力(「卵巣予備能」または「卵巣年齢」と言われることもあります)を知るための指標です。女性の場合、生まれた時点で卵子の数は既に決まっており、その数は増加しません。つまり、卵子の元となる原始卵胞は胎児期にすべて形成され、思春期になるとこれらの卵胞が順番に成長し排卵に至ります。AMHは、この初期の成長段階の卵胞から分泌されます。
AMHの値は、成長を始めた卵胞の数に関連しており、多くの場合、多嚢胞性卵巣症候群のような状態では高値となります。逆に、卵胞の数が少ない場合は低値になることが多いです。このため、AMHは卵巣予備能の指標とされています。この値は20歳代がピークで、年齢とともに減少します。高い値は成長中の卵胞が多いことを示し、排卵誘発剤の効果も高まります。逆に低い値は卵胞の数が少ないため、排卵誘発剤への反応が薄れる可能性があります。
当院の不妊治療では、従来の下垂体ホルモン検査(LH、FSH)や超音波検査に加えてAMHを用いることで、より詳細な卵巣予備能の評価が可能となり、将来の治療方針に重要な情報を提供します。AMHは新しい検査法であり、血液検査によって結果が得られますが、健康保険の適用対象外(体外受精の方は6ヶ月に1回保険収載あり)であり、費用が若干かかります。ただし、その有益性から、早めに受けることをお勧めします。
卵巣予備能とは
卵巣が卵子を排卵する能力を示す言葉です。これは「卵巣年齢」や「卵巣の老化」と同じ意味です。卵子の元となる原始卵胞は胎児期に全て形成され、それ以降増えることはありません。そのため、卵巣予備能は年齢とともに低下します。この傾向は特に30歳以降に明白となり、45歳から50歳にかけては卵巣予備能がほぼゼロになり、妊娠が極めて困難となります。卵巣予備能を根本的に改善する方法はまだ見つかっていませんので、妊娠を望む場合は、卵巣予備能が著しく低下する前に、適切な不妊治療を受ける必要があります。
抗ミューラー管ホルモン値(AMH値)の見方
AMH値が高い場合
平均から6未満の場合
平均よりもやや高いですが、妊娠に影響は少ないと考えられます。ただし、妊活を半年以上続けており、精子の側が正常な場合は、早めに不妊治療を検討しましょう。
6以上の場合
この範囲では多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の可能性が高くなります。特にAMH値が7以上の場合は、その可能性がさらに高まります。月経周期が一定していない方は排卵障害の可能性がございますので早めにご相談ください
AMH値が低い場合
2以上で平均未満の場合、平均よりも低い値ですが、妊娠には影響が少ないと考えられます。ただし、妊活を半年以上続けており、精子の側が正常な場合は、早めに不妊治療を検討しましょう。
1.2から2未満の場合この範囲では、早めに不妊治療を開始することをお勧めします。
1.2未満の場合
この状態では将来的に早発卵巣不全(POI)の可能性が高まります。こうした場合は、不妊治療を専門とする医療機関での治療を強くお勧めします。
抗ミューラー管ホルモン(AMH)と卵子の質
AMHは、単純に「卵巣内に残っている卵子の量」を示す指標です。しかし、卵子の質は基本的に実際の年齢(つまり卵巣年齢)と強い相関があります。個人差や他の影響要因は存在しますが、卵子の質は単に実年齢と同じものと考えてください。
卵子の質が高い場合、染色体の異常が発生しにくく、それに伴い妊娠率も高まります。逆に、卵子の質が低い場合、染色体の異常が起こりやすく、その結果妊娠率も低下します。年齢が若いほど、妊娠率が高いというのは確かな事実です。また、年齢が高いほど流産率が高くなるのも同様です。
抗ミューラー管ホルモン(AMH)が低いと
妊娠できない?
AMHは妊娠率を特定するものではありません。卵子の数が限られることは、必ずしも妊娠率が低下することを意味するわけではなく、むしろ不妊治療の適切なタイミングが制限されることを示唆しています。つまり、「AMHが低いからほとんど妊娠できない」という結論ではなく、その主張は避けるべきです。
低いAMH値は閉経が近い可能性を示唆することもありますし、卵巣機能の低下を示す兆候とも言えます。通常、閉経は50歳前後に訪れるものですが、20代の女性でも0.1%、30代の女性でも1%に早発閉経が見られます。AMH検査は、早発閉経のリスクを把握するために役立つものです。
卵巣内の卵子の数は年齢とともに減少する傾向があります。また、卵巣による手術(卵巣嚢腫など)、子宮内膜症(特にチョコレート嚢腫)などは、AMH値の低下を年齢とは無関係に引き起こす原因として認識されています。同様に、喫煙もAMH値の低下と関連しています。